ディレクターズノート

昨年、私は全国を旅していました。
各地で、いろんなお風呂に入りました。
広島の銭湯のサウナでは全身に刺青が入ったおじさんが全身に刺青の入ったお兄さんにツタンカーメンの本当の死因について熱く語っていました。サウナ室のテレビからは、無縁仏を合葬する公告を出した墓地のニュースが流れていました。
神戸の長田にある銭湯では建物の天井をくり貫いただけの露天風呂があり、天童よしみの珍島物語が大音量で流れ、全身に刺青がはいったおじさんが私に優しく笑いかけてくれました。そのおじさんは脱衣所では電話で誰かを目茶苦茶に叱り倒していました。
旭川のスーパー銭湯にはなまこ石鹸というものがあり使ってみたけれどただの石鹸でした。
青森の温泉では炭酸泉の湯船があり「ここの温泉はアルカリ質なので炭酸泉にすることで中性の気泡風呂になります」と書いてありました。
一番足を運んだのは鶴の越冬地になっている町の温泉で、露天風呂からは国道3号線と鉄塔が見え、そこで耳まで浸かって仰向けになり、色々なことを妄想しました。

今回の短篇集「ふまじめな絵本」は、昨年、旅をしながら、各地のお風呂で、サウナで、洗い場で、脱衣場で、また、風呂上りの夜風に吹かれながら、次はどんな作品をつくろうかしらと妄想してたまったアイデアたちを、2015年という劇団としてはなかなか多忙であった一年の隙間に、劇団メンバーたちがそれぞれ過ごした2年間と稽古場で掛け合わせながら、少しずつまとめていった作品たちです。

絵本というシンプルな枠組みの中で、やさしく、ふまじめにお届けします。どうぞ、見にいらしてくださいませ。

(根本コースケ)